仮想通貨小説「狂歌」がセンスありすぎて斬新。

久しぶりに面白い物語を読みました。
佐伯琴子の「狂歌」という小説です。

この小説は2018年の第10回日経小説大賞に選ばれた作品ですが、すばらしい読み応えでした。エピローグの最後を読み切ったあと、もう一度プロローグを読まずにはいられないプロット展開で読後感バツグン。

「仮想通貨」が「暗号資産」というネーミングに変わった今こそ読んでおきたい作品ですね。

スポンサーリンク

「狂歌」のざっくりとしたあらすじ

裏表紙に記載されている本書のあらすじをご紹介します。

福岡のフリーペーパーの女性編集者のもとに、広告主の男から一通の手紙が届く。百人一首をあしらった切手には、旅先で一夜をともにした男女の恋の歌が綴られていた。時が経ち、男は仮想通貨の取引所を起ち上げ、女が社長を引き受けていた。順調に拡大していた事業が危険な方向に流されていくにつれ、二人が抱える同郷ゆえの秘密と、消せぬ過去も露わになっていく。

主人公はフリーペーパーの女性編集者であるきり葉と「清くら」という料亭を経営している清倉龍臣。

プロローグを読むと、ふと佐藤正午の「身の上話 」を思い出しました。
飛行機の搭乗を待つシーン、30億円もの仮想通貨を持ち逃げする話かと思ったのですが、そうではないんですよ。ストーリーはそんなに浅くはないんです。

和歌が絶妙なスパイスとなっている。

この小説の凄さというのは「仮想通貨」という最先端のデジタル世界を描いているかと思いきや人間の機微を「和歌」という古典的な手段で表現しているところですよ。

新旧入り乱れたストーリー展開に驚きましたね。

「仮想通貨」が登場する場面は、龍臣がきり葉に呼びかけて「仮想通貨取引所」を設立するシーンです。一方、「和歌」は全体を通底して流れているメッセージともいえます。

難波江の葦のかりねのひとよゆえ
みをつくしてや恋わたるべき

12世紀ごろに皇嘉門院別当が読んだ歌とのことですが、一夜の恋として読まれた歌で有名です。この歌が「きり葉」の心境をピッタリと言い表していて、切ないんですよね。

難波江の葦を刈った後の一節のように、ほんの短い一夜でした。
しかしその短さゆえに未練が残り、想いが募り、わたしは生涯をかけて、あなたに恋い焦がれていくのでしょうか?

最初この和歌が出てきたときは「なぜこの歌が?」と思ったのですが、物語がすすむにつれて納得します。

他にも2首の歌が出てきますが、平安時代の宮廷にタイムスリップしたような気分になります。

春の夜の夢ばかりなる手枕に
かひなく立たむ名こそ惜しけれ

契りありて春の夜ふかき手枕を
いかがかひなき夢になすべき

仮想通貨を通じて巨額の富を得た直後にこれらの歌を詠み合うという、まさに「現代版新古今和歌集」のような世界観。

特に後者の和歌はストーリーの結末を示唆する非常に大事な歌です。

是非、この世界観をかみしめてください。

若者はどんどん日本を捨てていく。

さて、最後に個人的にお気に入りな場面をご紹介します。
宇賀神という若者が清倉に仮想通貨取引所のビジネスをもちかけるのですが、そのシーンがとても印象的でした。

宇賀神はソフトウェア開発事業で起業をして、22歳のときに会社の権利を売却し、100万ドルを手にします。そして事業を拡大しつつ、海外を転々とする「永遠の旅行者」となります。

彼はこういいます。

「本当に頭のいい若者は、もう日本を捨てていますよ。僕のような暮らしをする20代は僕ひとりじゃない、大勢いるってことです。
どんなに能力が高くても、日本じゃまともに相手してもらえない。日本は能力より年齢や肩書きを重視する社会ですからね。起業するにしても、香港やシンガポールなどのオフショアのほうが税金が安くていい。つまり、本来は日本の将来を担うべき才能や資産がどんどん海外へ流出しているんです。もったいない話だと思いませんか?」

人口減、少子高齢化がすすむ日本において若者の相対的価値はどんどん高くなります。
しかし実際のところ、既得権益層が権力を握っているかぎりは日本も変わらないのかもしれません。

宇賀神のような「日本という国家にとらわれない」という考え方がこれからもっと普及してくるような気がします。

ああ、趣深い小説でしたね。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする